走ると股関節の前側が詰まる感じがする。 それ、見過ごさないでほしい理由があります
2026.6.17
マラソンやランニングを楽しんでいる皆さん、こんな経験はありませんか?
・脚を前に振り出すときに、股関節の前側がつかえる・詰まる感じがする
・長距離になるほど、股関節まわりが重だるくなってくる
・ストレッチをしても股関節の違和感がなかなか取れない
・走り始めより走り終わりのほうが、脚の動きが窮屈になってくる
・腰ではなく、脚の付け根のあたりに鈍い痛みや圧迫感がある
「なんとなく動きが悪い気がするけど、走れてはいるから大丈夫」——そう思って走り続けているランナーは少なくありません。
しかし、この「詰まる感じ」は、股関節まわりの構造的な問題や、走り方・骨盤の使い方のくせが原因となっている場合があります。放置して走り続けることで、症状が慢性化したり、膝・腰など他の部位の痛みに発展したりするリスクがあることも、知っておいていただきたい事実です。
このコラムでは、股関節前側の詰まりや違和感が起こるメカニズムをわかりやすく解説し、骨盤の使い方や走り方との関係、そして当院が提供できるアプローチについてお伝えします。
第1章 なぜ走ると股関節の前が詰まるのか? メカニズムを知る
▍ 股関節の基本構造と「詰まり」の正体
股関節は、骨盤側のくぼみ(臼蓋)に大腿骨の骨頭(丸みを帯びた部分)がはまり込む「球関節」です。この構造によって、前後・左右・回旋など多方向への動きが可能になっています。
「詰まる感じ」は、大腿骨と骨盤が動いた際に、その間にある軟部組織(滑液包・関節唇・腸腰筋腱など)が挟み込まれるように圧迫されることで生じることがあります。医学的にはこの状態を**股関節インピンジメント(FAI:大腿骨寛骨臼インピンジメント)**と呼ぶことがあります。
ランニング中は、脚を前に振り出すたびに股関節を屈曲(曲げる)させる動きが繰り返されます。この動きの中で股関節の前面が圧迫されやすい状態になっていると、「つかえる・詰まる・圧迫感がある」という感覚が生じることがあります。
▍ ランニング中に股関節前側が詰まりやすい3つの理由
① 骨・形態的な要因
股関節インピンジメントには、大腿骨頭の形状が球状でなくなる「カム型」、臼蓋の縁が出っ張っている「ピンサー型」、またはその両方が合わさった「複合型」があります。生まれつきの形状的な特徴として持っている方もいますが、これ自体は必ずしも症状を引き起こすわけではありません。走り方や骨盤の使い方が加わることで、詰まりの症状として現れることがあります。
② 股関節まわりの筋の硬さ・短縮
特に**腸腰筋(ちょうようきん)**の柔軟性低下は、股関節前面の詰まりに深く関与しています。腸腰筋は腰椎から大腿骨の内側に付着する筋肉で、股関節を屈曲させる主要な筋です。この筋が短縮・硬化していると、脚を振り出す動作のたびに、詰まりや引っかかり感が生じやすくなります。また、デスクワークや長時間の着座姿勢が続く生活習慣は、腸腰筋の柔軟性低下に関与し得るため、ランナーにとって見過ごせない要因のひとつです。
③ 骨盤の前傾(前に倒れすぎた姿勢)
骨盤が過剰に前傾した状態で走ると、臼蓋の向きが変わり、大腿骨と骨盤の前面が相対的に近づきます。すると脚を振り出したときに、股関節前面での衝突・圧迫が起こりやすくなります。「走るとき反り腰になりやすい」「お腹が前に出る感じで走っている」という方は、骨盤前傾の傾向が関係している可能性があります。
▍ 詰まりを放置し続けると何が起きるのか
股関節の詰まりや違和感は「まだ走れているから大丈夫」と思いやすい症状ですが、以下のような問題へ発展するリスクがあります。
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放置した場合のリスク |
内容 |
|---|---|
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関節唇損傷 |
股関節のクッション役である関節唇(軟骨の縁)が傷つき、痛みや不安定感が増す |
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腰痛への波及 |
股関節の動きが制限されると、その代償として腰椎に過剰な動きが生じ腰痛につながる |
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膝への影響 |
股関節の動きの問題が膝関節に影響し、膝の痛みを引き起こすことがある |
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走り方の代償 |
痛みを避けようと走り方を変えることで、別の部位への負担が蓄積していく |
「動けているから大丈夫」ではなく、「詰まりを感じている段階で向き合う」ことが、長くランニングを続けるための選択です。
第2章 骨盤・腸腰筋・走り方の関係 ——なぜ走り方が股関節を追い詰めるのか
▍ 骨盤の傾きが股関節の環境を変える
骨盤の位置は、股関節の動ける「余白」に直接影響します。
骨盤が適切な位置にあれば、脚を前に振り出しても股関節前面には十分なスペースがあります。しかし骨盤が過剰に前傾すると、臼蓋が下向きに傾き、股関節を屈曲させた際に大腿骨が骨盤前面に早くぶつかってしまいます。これが詰まりの直接的な原因のひとつです。
【骨盤前傾が起こりやすい背景】
・腸腰筋・大腿直筋などの股関節屈筋群が硬く縮んでいる
・腹筋・臀筋など体幹・臀部の筋力が低下している
・デスクワークや長時間の着座により骨盤が習慣的に前傾している
ランニング中は体幹の安定が求められますが、体幹・臀筋が弱いと骨盤が前傾・左右に揺れやすくなり、股関節にかかるストレスが増大します。
▍ 腸腰筋の短縮が引き起こす「詰まりの連鎖」
腸腰筋は、ランニングにおいて脚を前に振り出す(股関節屈曲)動作を担う中心的な筋肉です。しかし、この筋が短縮して硬くなると以下のような問題が起きます。
・脚を後ろに蹴り出す動き(股関節伸展)が制限される → 推進力が低下し、後半にペースが落ちやすくなる
・脚を前に振り出す際に、腱が股関節前面で引っかかりやすくなる → 「パキッ」「ゴリッ」といった弾発音(弾発股)が現れることもある
・骨盤が前傾方向に引っ張られ続ける → 腰椎への負担が増し、腰痛を合併しやすくなる
「ストレッチをしても股関節の違和感が取れない」という方の場合、腸腰筋へのアプローチだけでは不十分で、骨盤の安定性や走り方そのものを変えていく必要があることが多いです。
▍ ランニングフォームと股関節詰まりの関係
股関節前面の詰まりは、走り方のくせとも密接に関係しています。
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フォームのくせ |
股関節への影響 |
|---|---|
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過度な前傾姿勢(反り腰で走る) |
骨盤前傾が強まり、股関節前面の余白が減る |
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歩幅を広げすぎる(オーバーストライド) |
着地時に股関節屈曲角度が大きくなり、詰まりが増す |
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着地時に骨盤が横揺れする |
股関節へのストレスが増し、インピンジメントが起こりやすくなる |
これらのフォームのくせは、本人が無意識であることがほとんどです。「自分でも気づいていないフォームの問題」にアプローチするためには、専門家による動的な評価が有効です。
第3章 「痛みなく、快適に走りたい」を実現するために当院ができること
▍ 当院の理学療法士について
ランニング障害に関する研鑽を積んだ理学療法士が在籍しており、股関節前面の詰まり・インピンジメント様症状に対しても、運動療法やフォーム修正指導を通じた改善を目指しています。必要に応じてインソールの作製も行い、足元から股関節の環境を整えるアプローチも取り入れています。
▍ 当院で行うアプローチの流れ
◆ STEP 1 医師の診察
まず医師が診察を行い、股関節の痛みや詰まりの原因を評価します。必要に応じてレントゲン等の検査を行い、骨・形態的な問題の有無を確認したうえで、理学療法士の担当予約を取ります。
◆ STEP 2 問診・現状把握
いつから・どのような動作で・どこに症状が出るか、走行距離・頻度・使用シューズ・日常の姿勢などを詳しくヒアリングします。「何km走ると詰まる感じが強くなるか」「坂道で悪化するか」など、具体的な状況から症状の仮説を立てていきます。
◆ STEP 3 静的・動的アライメント評価
立位・歩行・ランニング時の骨盤・股関節・膝・足部の動きを丁寧に観察します。骨盤の前傾度・股関節の可動域制限・左右差・臀筋の使われ方などを評価し、詰まりの根本原因を特定していきます。
◆ STEP 4 歩行・ランニングフォームの評価
実際のランニング動作を評価し、骨盤の揺れ・上体の傾き・脚の振り出しパターン・着地位置などを確認します。「股関節の詰まりが起きる動きのパターン」を専門的な視点で分析します。
◆ STEP 5 運動療法・フォーム修正指導
評価をもとに、個々の状態に合わせた運動療法を行います。
・腸腰筋・大腿直筋などの柔軟性改善(股関節前面のスペースを広げる)
・臀筋・体幹の筋力強化(骨盤を安定させ、詰まりを起こしにくくする)
・股関節伸展動作の獲得(推進力を高め、前面への過剰なストレスを減らす)
・ランニングフォームの修正指導(骨盤の使い方・歩幅・着地位置の調整)
◆ STEP 6 必要に応じたオーダーメイドインソールの作製
足部アライメントの乱れが股関節への運動連鎖に影響している場合には、歩行・ランニング動作を評価したうえでオーダーメイドインソールを作製します。足元から骨盤・股関節の動きを整えることで、より効果的なアプローチが期待できる場合があります。作製後は実際に歩行・走行を確認し、微調整を行います。
▍ こんな方に特に来院をお勧めします
・走ると股関節の前側に詰まり・圧迫感・違和感を感じる
・脚を前に振り出すとき、引っかかりや弾発音(ゴリッ・パキッ)がある
・ストレッチしても股関節まわりの硬さがなかなか改善しない
・腰痛と股関節の違和感を同時に抱えている
・フルマラソン・ハーフマラソンに向けて股関節の問題を改善したい
・以前に股関節を指摘されたことがあるが、そのまま走り続けている
「詰まる感じがするけど走れているから大丈夫」という判断は、慢性化・悪化の一歩目になりやすい状態です。症状が軽いうちに専門家が評価を行い、根本原因にアプローチすることが、長くランニングを楽しむための有効な選択肢のひとつです。
第4章 よくあるご質問(Q&A)
◆ Q. 股関節の詰まりは、安静にすれば自然に治りますか?
安静によって一時的に症状が和らぐ場合はあります。しかし、骨盤の前傾・腸腰筋の短縮・フォームのくせといった根本的な原因が解決されていなければ、走り始めると同じ症状が戻りやすい傾向があります。症状が繰り返す場合は、早めに専門家による評価をお勧めします。
◆ Q. 股関節インピンジメントと診断されたことがありますが、走り続けていいですか?
インピンジメントの診断があっても、すべての方が走れないわけではありません。症状の程度・関節の状態・走り方によって対応は異なります。まずは医師の診察と理学療法士の評価を受けたうえで、走り続けられる状態かどうか・どのような条件なら走れるかを確認することをお勧めします。
◆ Q. 股関節の詰まりと腰痛を同時に抱えているのですが、どちらを先に診てもらえばいいですか?
どちらから相談いただいても問題ありません。当院では股関節と腰椎・骨盤を一体として評価しますので、両方の症状をまとめてお伝えいただくことで、より精度の高い評価が可能です。
◆ Q. インソールは股関節の詰まりにも効果がありますか?
足部アライメントの乱れが股関節の運動連鎖に影響している場合には、インソールが有効なアプローチのひとつとなることがあります。ただし、インソール単独で解決するケースは少なく、運動療法やフォーム修正と組み合わせることで、より効果が期待できます。
◆ Q. インソールの料金について教えてください。
当院のオーダーメイドインソール作製は自費診療(保険適応外)となります。 料金:両側作製で8,260円(税込み) ※医師の診察等については、別途診療費が発生します。 ※作製後、一時的に違和感や筋の張りを感じる場合があります。受診の際はお使いのランニングシューズをお持ちいただくと、より正確な評価・作製が可能です。
まとめ 詰まりを感じながら走る毎日から、解放されるために
股関節の前面に感じる詰まり・圧迫感・重だるさは、「走り過ぎ」だけが原因とは限りません。さまざまな要因が複合的に絡み合って「詰まり」として現れていることが多くあります。
詰まりを感じながら走り続けることで生じる関節への慢性的なストレスは、関節唇損傷・腰痛・膝痛などへ波及するリスクがあります。「まだ走れている」今の段階こそが、根本から変えていくチャンスです。
当院では、ランニング障害に専門的な知識を持つ理学療法士が、一人ひとりの動き方・フォーム・足部の状態を丁寧に評価し、個々に合わせたアプローチを行っています。
「また気持ちよく走れる日に向けて、まずは一歩踏み出してみませんか。」
相談だけでも、ぜひお気軽にどうぞ。



